1. はじめに

2. チタンとは?(チタンの性質)

3. チタンのろう付


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1. はじめに

 チタンは「軽い、強い、耐食性がよい」という優れた特性を持つ金属として、化学プラントや航空機、自動車、身近なものでは時計、メガネ、ゴルフクラブなど、幅広く用いられています。
最近では、民生品を中心にその用途や可能性はますます広がっています。
そのように、チタンの特性を生かして構造物や製品にするには材料(部品)同士を組み合わせ、一体にする技術、即ち、接合技術が重要となります。
本研究室では、チタンの接合技術の一つであるろう付(*1)について研究を行っています。
これから、チタンの特性と用途について述べ、本題であるチタンのろう付について説明します。


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2. チタンとは?(チタンの性質)

 チタンは銀灰(ぎんかい)色の金属で、元素記号はTiで表されます。
チタンと他金属との性質の比較を表1に、チタンとステンレス鋼の耐食性(*2)の比較を表2に示します。

 【表1より】  

・チタンの融点が最も高い。
 
・チタンの密度は鉄の約60%であり、アルミニウムの次に軽い
   ↑
 チタンの強度は炭素鋼と同程度であり、比強度(強度/密度)が鉄の約2倍、アルミニウムの約6倍である。つまり、チタンは「軽くて強い!
 
・電気伝導率、熱伝導率がステンレス並に小さい。
 つまり、電気、熱を伝えにくい。
 
・線膨張係数がステンレスの約半分、アルミニウムの約1/3である。

 【表2より】
 
・総じて、チタンの耐食性がステンレス鋼より優れている。(苛性ソーダBPを除く)
 
・塩化ナトリウム、塩素ガスに対して、チタンの方がステンレスより特に優れた耐食性 を示している。
   ↑
 チタンは、海水において完全な耐食性を示す。  

 【その他】  

・生体適合性がよい。
 
・純チタンはα-β変態点(882℃)以上に加熱すると
αTi(cph:稠密六方格子)→βTi(bcc:体心立方格子)に同素変態する。(*3) 結晶格子(図)  

というように、チタンは他の金属にはあまりない優れた特性を持っています。
また、合金化することにより耐熱性なども十分得られます。
従って、用途も次のように様々です。  

・化学プラント
   ↑
 国内のチタン消費量の約30%。
 
・海水利用分野(火力、原子力発電所の復水器(大型の熱交換器)etc.)
   ↑
 国内のチタン消費量の約20%。
 
・航空機(ジェットエンジン部品etc.)
   ↑
 アメリカでは、チタン生産量の約70%が使用されているが、日本では2〜3%程度。

・自動車
 

・民生品(ゴルフクラブ、時計、メガネ、中華鍋、食器、アクセサリー、魔法瓶、人工  関節、建築資材(福岡ドームetc.)、印鑑etc.)
   ↑
 国内のチタン消費量の約30%。

 以上、チタンの特性と用途について簡単に説明しましたが、いかがでしたでしょうか?思った以上にチタンが身の回りに浸透しているのに驚かれたのではないでしょうか?印鑑などのユニークなもの(当然、実用価値もある)にも使用されているチタンは今後ますます、工業、産業、民生品問わずその用途は広がっていくものと考えられ、同時に接合技術も、そしてろう付も必要性は増していくものと考えられます。

 つづいて、いよいよ本題であるチタンのろう付について説明します。
 また、より詳しくチタンについて知りたい方は、チタンに関するサイトへのリンク集がありますのでご覧になるといかがでしょうか。

 (*2)耐食性とは、金属が腐食(金属が化学的反応により劣化損傷する現象。
「錆びる」という現象も腐食の一つ)から耐える性質、またはその程度。

 (*3)純金属の中で温度や圧力などの外的条件により結晶構造が異なるものがあるが、同素変態とは、外的条件により結晶構造が変態すること。
ex.)純鉄 変態点は910℃   
フェライト/αFe(bcc:体心立方格子)⇔オーステナイト/γFe(fcc:面心立方格子)    

Ref.
 <ホームページ>
     日本チタン協会
     神戸製鋼所 チタン
              チタン建材

 <書籍>
     鈴木敏之・森口康夫著 チタンのおはなし 日本規格協会


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3.チタンのろう付

 チタンを接合するには、に示すように様々な方法があります。
特に、ろう付は、

・母材(接合する金属)を溶かさない。

・異種材料との接合が可能。

・広い面積の接合が可能。 ・複雑、精密な接合が可能。

などの理由から、世の中の要求を満たしつつ、チタンの優位的な特性を生かすことのできる接合技術の一つであると考えられます。

 さて、ろう付するときは主に次の3つの条件を選択しなければなりません。
チタンをろう付する場合の選択肢もあわせて見てみましょう。


A.ろう材はなにを使用するか?
 チタン用のろう材には、Ag基ろう、Al基ろう、Ti基ろう、Zr基ろう、Cu基ろうがあります。ろう材の融点や接合後の使用環境などを考慮してろう材を選択します。

B.加熱方法は?
 高周波ろう付、抵抗ろう付などの短時間に加熱冷却される方法が採られます。
  ↑
 チタンとろう材の界面には、反応相(母材とろう材が反応した相)として固くてもろい金属間化合物が形成されやすく、十分な強度が得られない場合が多くあります。
そのため、チタンをろう付する際、高温での長時間加熱は金属間化合物の生成を促進するので、これを避けるために上記の方法が採られます。

C.ろう付雰囲気は?
 真空(〜10-2Pa以下)、Arなどの不活性ガス(露点-55℃以下)が最適です。
   ↑
活性な金属であるチタンの表面は、加熱により酸化皮膜を形成し、ろう材のぬれ性が低下してしまいます。
これを防止するには上記の雰囲気が最適です。(但し、ある程度の酸化皮膜が形成されていても、ろう付性や接合強度にはあまり影響しないことが本研究室における研究で最近明らかになりました。)

 これらの条件が適正に選択されて、ろう付が行われます。

 次に、一番重要なのは、ろう付後のもの(これを継手という)の機械的性質耐食性です。
 つまり、チタンの優れた性質を生かすことのできる継手かどうかということです。
 ここで問題となることを挙げます。

・他の金属と金属間化合物を形成する場合の多い金属であり、固くてもろい金属間化合物の形成は継手の強度に悪影響を与える。

α−β変態点(882℃)以上に加熱すると結晶粒が粗大化し機械的性質の劣化を招く。(純チタン)

・ろう材元素による耐食性の低下。  

 チタンのろう付に関する研究のほとんどが、以上のような問題を改善し、よりよい継手を得るために行われています。

 本研究室でも、それを考慮に入れながら、ろう付を行う条件が継手の機械的性質、接合部の組織に及ぼす影響を検討し、以下の可能性について研究を行っています。

☆ろう付温度の低温化 
   ↑
 ろう付温度をα−β変態点より低く設定し結晶粒の粗大化を防ぎ機械的性質の劣化を防ぐ
☆ろう付時間の短縮 
   ↑
 作業能率の向上、材料への熱影響を抑えられます。
☆継手の高強度化 


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